「BEFORE・極・メイド・イン・ジャパン」
「雨が強いな・・・」
クロフィは警察の手を逃れるようにジグザグに路地を走る。
「父上・・・母上・・・業とは言えどもすまぬ事をした」
クロフィの「本当の親」は明日にでも死体が発見され、さも強盗に襲われたように装われている為、警察もその線で調べている事だろう。
「目的地・・・九段家・・・」クロフィは迷う事無く、夜中の家のドアをノックした。
「なんだいなんだい・・・」ブツブツ言いながら「九段 四郎」が出てくる。
「眼の赤い者と言えば分かるはず」クロフィは言った。
「あー、あんたかね、ウチの先祖が冤罪なのに斬首をしたっていうのは」
「そうだ・・・業を消し去る為に我らは何度でも転生しなければならない」
「・・・キミの親も殺してきたのかい?」
「そうだ・・・業を受け継いで、殺される報いになっている・・・自分の娘によって・・・」
「そうか、ウチが代々引き継いでる情報といっしょだね」
「そうだ・・・あなたの先祖には・・・眼を潰し、もう片目を縫い合わせ・・・地獄のような思いをさせてしまった・・・」
「ふぅむ・・・」四郎はポケットから煙草を出すと吸い始めた。
数分の時間が過ぎた。
「仕えさせて欲しい・・・四郎殿・・・」
四郎はフーッと煙の塊を吹いて言った。
「いいよ、今回は禁忌(してはいけない事)を守って、今度こそ運命を断ち切りなさい、さ、入って」
「かたじけない・・・」
「現代日本語勉強したよね・・・ウチの五郎が不思議がるから出きるだけ標準語使ってね」
「こ・・・こんどこそがんばるお」
「砕けすぎ」
クロフィは家に入ると、メイドに調度良い広さの家だった。
「震えてるじゃないか、風邪ひいちゃいかんよ?」
「私の体はいい・・・あと二人の業を背負った斬首の仲間が気になる」
「何とかなってるさ、ボク個人では協力するつもりだから、今日からキミは九段 クロフィだ、分かったね」
「かたじけ・・・・ありがとうございます」
「業を解くには、最低禁忌を一つは残してその家の子孫と結婚して子を産むんだったよねぇ」
「そうです・・・ですから五郎おぼっちゃん・・・年は同じですが守らせて欲しい・・・」
「キミ、カワイイから娘にしてもいいなぁ。じゃ、キミは五郎のメイドね、明日メイド服買ってくるから。ゴスロリ」
「ごす・・ろり?」
「ハハハ、ボクの趣味だから」
「分かった、頼む・・・では私は右目を己の手で縫う・・・すまないが席を外してくれ」
「はいよはいよ・・・泣くところも見られちゃいけないんだったね、ホイホイ、おやすみ、寝るときはそこのベッドに毛布おいといたから」四郎が去る。
広い居間にクロフィ一人きりになる。
針と糸。
ゆっくりと自分の業を戒めるように右目を縫う。
痛くは無い、もう何度目の経験になるだろう。
左の赤い瞳から血の涙が出る。
それを人に見られてはいけない。
業。